Writer. 平山
取材日:2023年5月17日
掲載日:2024年6月13日

今回は、ゲームを作りはじめるために必要なことを学ぶため、大阪電気通信大学の森善龍先生にインタビューさせていただきました。

森 善龍 (モリ ヨシタツ)
大阪電気通信大学 総合情報学部 デジタルゲーム学科 特任准教授
大手ゲーム会社に勤務。
退職後、大阪電気通信大学の特任准教授として就任。
ゲームデザインやVRコンテンツデザイン、ゲームジャムについて研究。


ゲームデザインとは?

ーーゲームデザインとは何ですか?
森:ゲームはルールがあって初めて成立します。遊び方のルール。まずはそれを考える仕事です。その上で、そのルールで遊ぶ場合にどんな要素があったら面白いか、楽しめるかをいろいろ考えます。ゲームの設計図を作るような仕事と言って良いと思います。

ーーゲームデザインをする上で、森先生が難しいと思うことは何ですか?
:さまざまな意図でゲームデザインを行っても、実際に作ってみないと、それが本当に意図した遊びが達成できるか分からないことですね。ゲームが完成してから意図した遊びが実現できないことが発覚してしまったら大変なので、そういった問題がないか「プロトタイプ」と言われる、遊びを検証する目的の、作りたいゲームの重要な要素を実装した、シンプルなゲームを制作する場合があります。

ーーゲームデザインにはどのような面白さがありますか?
森:ゲームデザインでは、ユーザーが遊んだ時に、楽しいと思えるルールを考える必要があります。楽しいと思えるルールとは、プレイした時にユーザー同士、またはユーザーとAI(コンピューター)の間で適切な駆け引き(かけひき)が生まれるものが良いです。その駆け引きはユーザーの体験となります。ゲームデザインの面白さは、ユーザーにどのような体験をしてもらうかを考えることですね。

ーー楽しいと思えるルールの具体例を教えてください。
森:身近なものなら、じゃんけんは分かりやすいルールを持った遊びです。基本のルールは、3つの選択肢の中から1つ選び、参加者同士でそれを選び合う…これだけです。その3つの選択肢にはそれぞれ勝ち負けの設定がされており、選択によって勝者や敗者が決定します。こういった仕組みを「三竦み(さんすくみ)」といいます。
ただこれだけなど確率の話でしかないのですが、実際にはプレイヤー同士は駆け引きをすることができます。例えば、「俺はグーを出す」と相手に言って、相手に揺さぶりをかけたりできます。そうして駆け引きが生まれることで、じゃんけんを楽しむことができます。そういった駆け引きの余地があるルール、それが楽しいルールと言えるでしょう。

また、もしそういったジャンケンのような遊びをより刺激的にしたい場合は「勝者にはお菓子をプレゼント」とすると良いでしょう。「勝利者への報酬」も、ゲームが熱くなるルールの1つですよね。

:ゲームの楽しさに関することでしたら、プレイヤーが相手の行動を予想することも面白さを作る上で大切な考え方ですね。

例えば、敵が完全にランダムな行動を取り続けたら、プレイヤーは何を考えても意味がないですから、面白くなくなりますよね。ですが、敵と何度か戦うことで、その敵が何をするのかを先読みすることができると、ゲームが面白くなり、楽しむことができます。

ーーユーザーが楽しいと思えるゲームを作るには、難易度も重要になるかと思いますが、ゲームの難易度はどのように調整するのでしょうか?
森:企業の話になりますと、対象者の年齢やプレイスキルに沿ったゲームになるように難易度を何度も調整します。例えば、完成形ではない状態のゲームを、クローズドαやオープンβといった形で事前に遊んでもらい、その反応をもとに発売に合わせた難易度を調整します。また、ゲームの難易度をチェックする会社に確認してもらったりもします。
少なくとも、ゲームを開発している人たちは開発中のゲームに慣れてしまいますから、開発者以外の人に遊んでもらいながら難易度を調整します。要するに、ゲームを作るときには、他の人に遊んでもらいながら難易度を調整することが良いですね。


ゲームをつくるために①チーム・企業でのゲーム開発

ーーまず、ゲームは、どのように作られて、私たちが遊べるようになるのでしょうか
森:会社にもよるかと思いますが、「コアメンバー」といわれる、ディレクター・プロデューサー、ゲームデザイナーやプログラマーやグラフィッカーのリーダークラスの人たちでゲームの下書きを考え、それが本当に売れるものかどうかを会社内でじっくり考えます。これは面白そうだぞ、ユーザーに喜んでもらえそうだ、買ってもらえそうだ、という予想ができて、計画ができれば、実際にチームを結成して制作を行う形になります。

コアメンバーが用意した下書きをもとに、ゲームデザイナーがそれをより具体的にした企画書や仕様書等を作成します。

それをもとにグラフィッカーやプログラマー、サウンドなど様々なメンバーが制作を行います。とはいえ、ゲームデザイナーだけで全部考えるのではなく、実際に制作を行うメンバー同士で企画書や仕様書なども考え、制作する方が意見の行き違いが少なくて良いです。

実際に作ってみた段階で修正が必要になる部分も多々出てくるため、定期的にチーム内で制作物のチェックを行い、より良いゲームを制作できるようチームで協力しあって制作を行います。

開発の終わりごろになると、バグチェックと言われる見た目や挙動がおかしい箇所を修正する期間があります。非常に大人数で、たくさんの素材やソースコードでゲームは制作されるため、どうしてもその調整の段階で不具合は出てしまいます。

そういった修正期間を経てゲームは完成し、販売される形になります。

ーーゲームをチームで開発する時には、チームメンバーの分野の知識を学ぶ必要はありますか?
森:プロの現場の話をしますと、常に学び続けることが大事ですから、知らないことは調べていくのが基本ですね。

チームメンバーに任せられることは全部任せちゃっても大丈夫だと思いますが、他の分野の知識を持っておくと、何かを任せる時にも、伝える内容の誤解が生まれにくくなります。ですので、他の分野のことについても、知れば知るほどいいと思います。

ーーチームで開発する時に、するといいことは何ですか?
森:それぞれが制作したものを集めたときに、みんながイメージしていたものがズレている、みたいなことが無いように、ユーザーに体験してもらいたい内容・達成したい目標などを資料にまとめると、情報の齟齬が少なくなり、作りたいゲームを作りやすくなります。しかし、あなたがリーダーだった場合に、要望をしっかりと理解してくれる協力者がチームメイトなら、細かく一人で決めすぎなくても良いかもしれません。その人に任せられる部分は積極的に任せることで、一人では思いもよらなかった良い化学反応が起きる場合もありますよ


ゲームをつくるために②個人でのゲーム開発

ーーでは、個人でゲームを作る場合は何から始めれば良いでしょうか?
森:まずは、ゲームを作るソフトの勉強から始めましょう例えば、UnityやUnrealEngineなどのフリーのゲームエンジンを触ってみるのが良いでしょう。そして、それがある程度使えるようになったら、ゲームを形にしましょう。まずは、アイデアをプロトタイプに落としこむところから始めていくと良いですね。

ーーゲームを作るときに忘れてはいけないことは何ですか?
森:食事や睡眠を忘れないようにすること…ですかね!もちろん熱中しすぎて学校の宿題を忘れたりしないようにもしましょうね。

森:開発中の心構えの話で言いますと、企業であれば、そのゲームが売れるかどうかが大事ですし、ユーザーのことを考えられているかも大切です。仕事ですので、もちろん自分の好みではないゲームを作ることもあります。ですが、まず自分が楽しめないと、ユーザーも楽しめないですから、自分も楽しむことを忘れないようにしたいですね。

ーーゲームを作るときに、ゲームの軸をおろそかにしないためにはどうすればいいですか?
森:完成形を決めて、タスクリスト・企画書を作成して、マネージメントしながら作ることが大事ですね。短期間のうちに完成させる、ことも良いでしょう。長い時間作っていると色々作りたいものが後から後から考えついてしまって、キリがありませんからね。軸を疎かにせず、完成させるぞと強く意識する必要はあるでしょうね。

そもそも、ゲーム開発は足し算ではなく引き算が基本ですから、あまり後から足すことはしません。アイデアを足すにしても、本当に大切なものかどうかを見極めながら足すことが大切です。そうすれば、コアな部分はおろそかになりにくいと思います。


ゲームのアイデアの出し方は?

ーーゲームのアイデアの出し方を教えてください。
森:アイデアの出し方はいろいろあります。トレーニングとして行える簡単なこととしては、自分の好きなゲームに、別の要素を追加する、ゲームのジャンルを変えてみる、ルールを変更するなどしてみると良いかもしれません。この考え方を強制連想法と言います。日頃から何かと触れ合う場合にこれをゲームにする場合、どんなルールを/要素をつければ良いか?など考える癖をつけていると良いかもしれませんね。

自分の好きなゲームの一つの要素を極めて、それを活かして、どうゲームに落とし込むかを考えてもいいと思います。例えば、ジャンプという要素を極めて作るとかですね。そして、ジャンプ要素を活かしてどのようなゲームを作るかを考えるといったようにするということです。

また、既存のアイデアを逆にして考えるのも1つのアイデアの出し方ですね。重力を逆にする、とか敵と味方を逆にする、などです。

ーー普段からアイデアを考えずに、アイデアをすぐに出す方法はありますか?
森:当然、そのような特効薬は無いですね。アイデアは連想ゲームのように考えることになります。普段から色々な知識を、意識しながら取り込んで、意識して取り出せるようにするトレーニングが大事です。意識して知識を取り込まないと、必要な時に知識を取り出すことはできません。普段から雑に本棚に本をなおしていると、どれだけ本があってもすぐに取り出せないのと同じです。

ーー他の作品を真似をすることはパクリになりませんか?
森:ゲームを作る上ではどの瞬間に、どんなことをユーザーに感じさせたいのかなどを捉えて、それを自分のゲームにどう落とし込むかを考えることが大切ですね。また、ただ真似るのではなく、他にない特徴を持たせることが大切です

ですが今は、他にない特徴のみで成り立つようなゲームを作ることはそうそうないので、今までにない「組み合わせ」を試して、一つのゲームとして成り立たせることで、独自性があると言われるようになるかと思います。一般的に同じ企画書でも作り手が違えば全然別のものができますから、そのままコピーしない限りは「あなた」という制作者が加わることで、他にない特徴も自然と生まれるかと思います。

森:ゲーム業界が始まったころは、有名なゲームに似せて作った作品が数多くありました。元の作品がそれほど上手くできていたことの裏返しとも言えますね。その過程でより斬新で面白いものが開発されていく…そうして今のゲーム業界があると言ってもいいですね

:企業的な話としては、あまり真似たりコピーしたりと言うのは大っぴらに言えることではありませんが、ゲーム制作にチャレンジしてみる皆さんの場合はぜひ好きなゲームを真似て作ってみると良いです。良いトレーニングになると思いますよ。


未来のゲーム開発者へ

ーー最後に、これからゲームを作りたいと考えている皆さんにメッセージをお願いします。
森:まずは小さなもので良いので何かを作り切ることが大切です。企画書でもいいし、好きなゲームの一要素を習作としてプログラムしてみるのでもいいですね。とにかく、ゲームを制作してみないと分からない問題や得られない学びが非常に多いので、「実践に勝るものなし」と考えてもらえれば良いと思います

今回のインタビューでは、ゲームデザインのことや、アイデアの出し方、ゲームをどう作り始めればいいかをお聞きしました。ゲームの面白さやアイデアは、実は身近にあること、そしてそれを見つけて、どうゲームにするかを考え、まずは形にしてみることがゲームを作るために大切なことだと知ることができました。森先生、ありがとうございました。

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デジタルゲーム学科 准教授 森 善龍 紹介サイト
https://www.osakac.ac.jp/whoslab/research/mori/

大阪電気通信大学 総合情報学部 デジタルゲーム学科
https://www.osakac.ac.jp/faculty/isa/dg/